埼玉県障害者アートフェスティバル「私たちの目」展

<三澤レポート>
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 武蔵野美術大学、跡見女子学園大学、埼玉県立大学の学生による、埼玉県障害者アートフェスティバル「私たちの目」展、本日を以て終了となりました。
 たった5日間という短い展覧会ですが、多くの方に「よい展覧会だ」と評価の言葉を頂きました。
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 昨日はシンポジウムが開かれました。埼玉近美の前山学芸員には「見ていてとても気持ちの良い展覧会だ」とほめて頂き、その理由を、「感じたこと、大切なこと、伝えたいこと、その気持ちが展示に出ている」と言葉をもらいました。また、「一人一人の感じた多様性が展示に生かされている」と、評価して頂きました。

 展覧会と展覧会までの道のりを、ちょっと振り返ってみたいと思います。



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大変お世話になった県庁の小田さん(左)と渡辺さん(真ん中の青いシャツ)その前が赤松さん

 そもそもこの企画は、埼玉県福祉部の事業として組まれ、実行委員会を立ち上げアートフェスティバルを運営しています。展覧会の他には演劇があり、それらに関したワークショップありと、県あげての障害者芸術際です。
 企画意図は、障害者と健常者との境を取り払う。ノーマライゼーションの進行施策の一環です。もう一つは、障害者の自立を目指す取り組みです。たとえば、美術作品は売れることによって障害者の経済的自立が出来るようになります。そのきっかけを作りたいと、このフェスティバルが企画されました。

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 さて、「私たちの目」展について話さなければなりません。
 この展覧会は「アールブリュット」とか、「アウトサイダーアート」とか概念づけられる障害者の作品を、偏見のないしなやかな感性で捉え直そうとする企画でした。それには学生が適しているだろうと、前年度の企画委員会で決まり、白羽の矢が当たった大学が、武蔵野美術大学、跡見女子学園大学、埼玉県立大学の3大学です。選ばれた学生は20名。もちろん、他大学の学生とは全く面識のない人たちばかりです。

 展覧会の内容は、20人の学生が、自分の目を信じて、気に入った作品を選び展示するというものです。全ての学生が美術を学ぶ学生ではありません。むしろ美術を学ぶ学生の方が少ないのです。


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 展覧会を動かして行く為には企画をしっかり練って、コンセプトを吟味しなくてはなりません。今回はまして異なる大学の20名の学生をまとめていかなければなりません。その役割を武蔵美の芸術文化学科、赤松さんと酒井さんにお願いしました。跡見はアートマネージメント学科の学生、県立大が保健医療福祉学部の学生、全く専攻の異なる学生たちです。何度も学生で会議を持ち話し合ったそうです。

 たとへば、「私たちの目」という展覧会名を決めるのにも2ヶ月ぐらいかかっていました。でも、そのディスカッションが最終的に優れた展覧会に導いてくれたのでしょう。
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 企画担当は、企画に専念し、他の学生は自ら選定した作家に取材に行きました。作家の中には、言葉が自由に話せない方もいます。コミュニケーションが全く取れない方もいます。しかし、学生は自分の選んだ作品を人々に紹介したいという思いで取材を続けました。その言葉が、作家紹介のパネルです。
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 最初、学生から上がってきたコメントは、どこかよそよそしく、乾ききった言葉が並べられている感じでした。実行委員長の赤松さんより相談を受け、即ダメ出しです。「書き直し!」「言いにくかったら私が言おうか?」との助け船に、「私がやります」との返事。そのようなやりとりを重ね、質が高まっていったのです。赤松さんは、展覧会前には端から見ていてへとへとになっていました。
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 12日は学生によるシンポジウムとギャラリートークが、埼玉県障害者交流センター、(社)埼玉県社会福祉事業団の企画として行われました。また、エイブルアートジャパンの方々の、目の見えない障害者との作品鑑賞ツアー(MAR鑑賞ツアー)も展開され、誠に賑やかな1日でした。
 目の見えない方との作品ツアーは、私も前大学で全盲の学生を連れて行ったことがありますが、作品の概要を全盲の方に伝えることで、実は自分自身の鑑賞が深まってく体験をした事があります。そのとき感じたことは、鑑賞活動は個人の経験をもとに行われる創造活動だと強く感じました。全盲でもなんと豊かな作品イメージをふくらませることか、全く驚いた事があります。
 昨日も近くによってそのやりとりを聞いていましたが、実に新鮮で、新たな発見をさせてもらいました。
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 ギャラリートークは、跡見の学生も、県立大の学生も、初めての体験です。当日午前中に、急遽レクチャーをし、「とにかく自分の感じたことを素直に話すこと」とアドバイスをしました。始まってみたら堂々としたもので、観客から、「大学生はしっかりしているねぇ」と。また、トークが終わると拍手がわき上がり、私自身もこんなギャラリートークは初めてでした。私も自然に拍手していました。いつの間にか、トーカーの周りに大勢の人だかりが出来ていました。
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 また、出品作家との掛け合いも急遽入ったりして、作者が何を感じているか、また障害を乗り越えて力強く生きようとしている姿と言葉を聞いて、美術の持つ可能性と、やはり美術することは生きること、「生きるをつくる、つくるを生きる」という、どこかの大学の、80周年のコピーそのものだと感じました。(ムサビです)
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 約1時間のギャラリートークでしたが、みなさん最後まで、熱心に聞いて下さり、また、だんだん観客が増えていく様子が、素晴らしいギャラリートークを象徴しています。下の写真が最後に近い作品のギャラリートークを聞いている人々です。
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 今回の「私たちの目」展は、展覧会づくりを通して、障害と健常との境界線を乗り越えていったプロジェクトであったと言えます。障害と、健常の問題は、そのまま学生同士の関係にも当てはまり、私には、互い学の学生が専門性や、大学の文化、そして日々の生活や物理的障害を乗り越えて、展覧会を成功させていった事と見事に重なって私には映るのです。
 「展覧会をつくる」というプロジェクトに関わった全ての人が、一人一人の役割を遂行し、協働する。その結果、新しい関係がつくられていく。障害者の問題も、人と人との関係性の中で、生まれ、また解決していくものなのでしょう。

 シンポジウムである学生が、「僕は、最初は障害者のことをもっと知ってもらいたいと思って参加して、(企画者の)絵を見せることを中心に据えた展覧会に少し疑問を持ったけど、でも、絵は人と人との心をつないでいく役割を果たす事に気づいた。アートの力にあらためて気づいた」と言っていました。「障害者の作品と、健常者の作品と、そこには境界線が見いだせない」とも話した。つまり、我々自身が境目を無くすこと、それをアートの力で行うことが、障害者理解への第一歩になってくのでしょう。

 今回の展覧会のコンセプト「私たちの目」では、実にしなやかな学生たちが、私たちの、映ってはいるが見えていない目を、優しく開かせてくれました。また、アウトサイダーアートや、アールブリュットとして語られる芸術のジャンルさえも無意味にしてくれる気がしました。そのような期待をこのプロジェクトで育った学生たちから感じたのです。

 この様な機会を与えて下さった、埼玉県福祉教育局、埼玉県社会福祉事業団、埼玉県障害者交流センター、エイブルアート太田さん、埼玉近美の前山さん、各作業所のみなさん、他関者のみなさまに心よりお礼を申し上げます。
by tabimusa | 2009-12-14 01:06 | その他 | Comments(0)


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