所沢写生大会

〈三澤レポート〉
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去る4月24日、所沢の西武園遊園地で「第59回所沢写生大会」が開催された。来年で60回を迎える。

この写生会は昭和23年に小学校教師に成り立ての若い新任先生が、休日にクラスの子に呼びかけて行った写生会が始まりである。数年後、所沢市の先生たちも加わり写生大会へと発展した。
始めようと思ったきっかけを(故)与芝先生は次のように語ってくれた。

「『チューインガム!』と叫びながらジープを追う子どもたち。その姿を見て、子どもたちに夢を与えたい、何かできないかと考えて始めたのがこの写生大会。まだ戦後まもなく、生きる事が精一杯の時代だった。」

当時ここまで写生会が大きくなるとは誰も思っていなかっただろう。またここまで長年続くとは誰も考えていなかっただろう。一人の青年教師の願いは、人々に伝わり、行政も巻き込み、広がっていったのである。
その与芝先生は、第60回の写生会をずいぶん楽しみにしていた。昨年亡くなられたのが悔やまれる。



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実行委員会のスタッフは、小中学校の教員有志と所沢市社会教育課。そして西武園遊園地と、サクラクレパスが応援している。

開会の挨拶でサクラクレパス西村相談役が、「数字ばかりがもてはやされる時代、情操教育が如何に重要か」と私達に向かって熱く語られた。西村さんも若き頃からずっと写生会を支えてきてくれた方である。

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受付に並ぶ参加者たち。大人300円、子ども100円。画用紙は提供される。

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写生は子どもから大人まで参加できる。今年は2000人を超える参加者があった。

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近くの幼稚園も毎年参加してくれる。子どもたちは絵を提出すると乗り物券がもらえる。園児はクラスみんなで一つだけ乗り物に乗って帰っていく。子どもたちは毎年とても楽しみにしているそうだ。
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いい絵だねと話しかけたら見せてくれた。

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二人の小学生は『絵が大好き』と話してくれた。1日かけて、絵をじっくり描く機会も少なくなってきた。

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至る所で、親子で話し合っている光景を目にする。以前に比べ、手を貸す大人も減ってきたようである。

『私も子どもの頃、参加して、賞をもらったんです」と話してくれるお母さんや、中には親子3代にわたって写生会に参加した家族もいる。60年近い歴史の重さを感じる言葉である。

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我々スタッフにとっても良い勉強の機会だ。目にとまった子どもたちにアドバイスをしたり、褒めたり、励ましたり。中学校のS先生も、日頃関わっている生徒とは違う年齢の子どもを相手にとても楽しそうである。

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作品提出場所では担当のスタッフが作品を受け取る。その際、時間があれば、必ず褒めてあげる。その瞬間、子どもたちはうれしそうに笑みを浮かべてくれる。ほめ方一つをとってもさすがベテラン教師。具体的な褒め方をするのである。

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中学校の美術部。引率の先生と。


私は写生大会に関わってそろそろ20年近くなる。大学出たての未熟な中学校教師にとっては、子どもの絵を見る機会など滅多になかった。私はこの写生会を通して多くの諸先輩に子どもの絵の見方を教わった。

この写生大会は、実に様々な教育の機会を我々に与えてくれている。
まずは小中学校の先生方の交流である。この写生会、そして審査会、勉強会と、新年会と年に数回顔を合わせ、子どもについて、美術について語り合う。その交流が我々の視野を広げてくれる。

実行委員は新任の教師から指導主事、教頭、校長、経験者まで。一人の市民として参加しているので、実にフラットな人間関係が生まている。(与芝先生はじめ諸先輩がその意識を大切にしていた)

また、審査会では、子どもの作品をみんなで審議し合い賞を決定していく。その様子は最近各地で行われているギャラリートークそのものである。教師にとっては子どもの思いを如何に読み取るかの良い勉強になる。ベテラン講師も新人も、一枚の絵について議論する姿は日常なかなか見る事ができないであろう。

図画工作、美術の大切さは所沢市の教育委員会にも認められている。今回も学校教育部長をはじめ数名が大会にみえている。市民も図画工作美術の必要性を感じている割合が多い。(所沢市教育センター研究員報告H18.19)

60年という時間は、実に多くの人材を育て、排出している。『子どもたちに』という思いで始まった写生大会であるが、考えてみると、その役目は我々自身の研修の場でもあった。今日、教師が集まり、何かを協働で行う時間のゆとりが少ないようである。美術教育の活性化は、まず人が集まって何かをするところから始まるのではないだろうか。それは、美術自体が社会に働きかける社会的機能を有しているからだ。その美術を教える教師が集まれば必然的に社会と美術を結びつける出来事が生まれる。そして美術の価値が社会に伝わってくと考えるのである。美術と社会のメディエーター(仲介者)に美術教師は最適だろう。

今年、武蔵美でワークショップ実践演習という授業が開講された。オムニバス形式の授業で様々な講師が話しをする。教職を取っている学生も多く履修している。私自身それに関わる事で改めて「ワークショップとは何か」を考える機会ができた。これからの美術教員は、単に作品制作や作品鑑賞だけ教えて満足するのではなく、美術によって社会を作っていく、または関わっていくというような視点を持っていく必要があるだろう。
何もそれは大げさであったり、全く新しことではない。例えば、この所沢写生大会も、社会の中で静かに、そしてしっかりと機能しているではないか。この様な社会的な機能も美術は持っていると教えていく事も大切だと考えられるのである。
by tabimusa | 2010-05-02 18:15 | その他 | Comments(2)
Commented by shigeshige05 at 2010-05-05 23:31
朝霞の飯田です。
今日は川越市立美術館のワークショップ、ありがとうございました。とても楽しかったです。すぐ実践できる内容でした。

写生会はとても歴史のあるものなのですね。近隣に住んでいながら知らなかったのが残念です。2000人という参加者がいるということはリピーターもおおいのでしょう。
このような校外での図工・美術のイベントが少しずつ市民に浸透して、図工・美術教育を理解していただく良い機会なのですね。来年は生徒と行きたいです。
Commented by tabimusa at 2010-05-07 00:52
飯田先生、川越市美のワークショップお越しいただきありがとうございました。8日は修正を加えてもっとスムーズに展開したいと思います。
写生会の審査会は同日13時から所沢市役所8階で開催しています。審査会がまたいいですよ。welcome!!です。幼児から大人の絵まで並んで、人の成長を見る事ができます。お時間がありましたらお越し下さい。(みさわ)


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